【インタビュー】Vera, etc. 【Bandcamp】

こんにちは。このブログでは、これからインディーの音楽配信サイト・Bandcampを中心に活動するミュージシャンを主に、多くの知られざるアーティストを詳しく紹介していく予定です。

 

その第一弾として、今回は、オランダ出身のインディー・ミュージシャン、Vera, etc. を取り上げます。(Wata)

avant-en-garde.bandcamp.com

 

 

 

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こんにちは、Lesleyです。

普通であれば、この記事の冒頭では私自身の筆でVera, etc.――オランダ出身の素晴らしいソングライター、プロデューサー兼グラフィック・デザイナー――を紹介するところです。けれどここでは趣向を変えて、彼女が昨年7月に発表したシングル「hey hi!」の一曲「hey」の歌詞を引用して紹介してみたいと思います。

 

 

"Hey,

やあ、

I'm Tac

私はTac

I'm 25, I'm Dutch

25歳のオランダ人
I cannot drive

運転はできない
I would tell you my real name

私の本当の名前を言いたいところだけど
But I think it might

もしかすると……

Think it might die"

名前を変えることになるかもしれないんだ

 

この曲は、Veraが現在制作中の二つ一組のアルバムのうちの一つ、「offline」の1曲目になる予定です。もう一つのアルバム「online」は、今月3日に彼女が運営するネットレーベルavant en garde!からリリースされました。

 

Veraの音楽は、きらびやかで歪みの効いたエレクトロニック・ミュージックと、感情のこもったインディー系のギターに、上で引用したような、かなり自伝的な歌詞が特徴です。

彼女は非常に才能あふれたデザイナーでもあり、avant en grate!レーベルのリリースのカバーアートはすべて自身で手掛けています。avant en grate!のBandcampをひと目見ただけで、きっとVeraの美術的なセンス――パステルカラーと、サイケデリックで抽象的な夢の世界の魅惑的な融合――に心ひかれることでしょう。

 

今回、私はVeraにインタビューを行い、さまざまなことに関する彼女の考えと、挑戦的な最新作「online」の発売に臨んで、どのようなことを感じているのかを尋ねてみました。

 

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Lesley: はじめに、調子はどうですか? 最近どう過ごしてるか教えて下さい。

Vera: こんにちは、私は元気です!今日はインタビューに招待してくれてありがとう。最近は、私のデビュー・アルバム(「online」)を完成させるために、曲作りやデザインをたくさんしています。ストレスのかかる作業ではあるけど、今作っている曲をみんなに向けて発表するのは楽しみですね。

 

Lesley: VeraさんのBandcampには、2019年からの録音がアップロードされていますが、その年に音楽を作り始めたのですか? それとも、その前から音楽を作っていたのですか?

Vera: たしか2012年頃に音楽制作を始めたと思うのですが、その時はほとんど音楽制作ソフトをいじっているだけで、不思議な音や単純なループ音源しか作っていませんでし

た。ソフトで不思議な音を作り出すのはとても楽しいのですが、それでも私はそれ以上の曲を作りたかったんです。それで2018年ごろに、もうちょっと音楽に真剣に取り組んでみることにして、楽器の練習を始めたり、作詞や録音をしたりとか、そういった楽しいことをやり始めていきました。

 

Lesley: いろいろな音楽の影響を受けている一方で、Veraさんの楽曲はすごくバラエティーに富んでいて、個性的だと思います。特にVeraさんが影響を受けたアーティストは誰ですか? 以前「Field Mouse」という曲は、1980年代のインディー・ポップバンド、フィールド・マイス (The Field Mice) に触発されて作ったとの発言を耳にした覚えがあるのですが……

Vera: このアルバムを作るにあたっては、私はあらゆるジャンルのインディー・ポップのバンドから大きな影響を受けました。インディー・ミュージック、特にインディーのバンドがとても単純なパートから本当にすごい曲を作り出すのには、どこか純粋で素晴らしいところがあります。インディー・ポップを聴くだけで、私は音楽作りに関していろいろなことを学んだ気がします。

このごろ強く影響を受けているアーティストといえば、例えばスピンヴィス (Spinvis)、ソフティーズ (The Softies)、プライマル・スクリーム (Primal Scream) やジーザス&メリーチェイン (The Jesus & Mary Chain)などがありますが、いつも聞いたことのない音楽を探しているような大の音楽好きとしては、どのバンドから特に影響を受けたか断言するのはなかなか難しいです。

エレクトロニック・ミュージックも、私の音楽制作に強い影響を与えています。小さい頃からずっとエレクトロニック・ミュージックを聴いてきて、その中でも特に実験性とポップの要素を併せ持ったものを好んで聴くようになりました。90年代では、ケミカル・ブラザーズ (The Chemical Brothers) やビョーク (Björk) が本当に素晴らしいと思いますが、現在進行形でインターネットで活動しているアーティストにも、同じくらい素晴らしい人たちがたくさんいます。レーベル・PCミュージック (PC Music)とその周辺のアーティストは継続的にわくわくさせるような音楽を発表していますね。そしてもちろん、ソフィー (SOPHIE) はPCミュージックの重要なアーティストで、彼女の突然の死*1は本当に惜しまれます。

 

Lesley: 20世紀には、一度に複数の分野の芸術に同じ熱量で打ち込むような創作者はあまりたくさんいませんでしたが、インターネットの時代になって、そうした「なんでも屋」のクリエイターになることが以前より簡単になったと感じています。

その一例と言っていいのでしょうか、Veraさんは音楽活動と同じくらいグラフィック・デザインの活動を重要視しているではないかと思うのですが、どうでしょうか?

Vera: その通りだと思います! 最近はどちらかというと音楽のほうに力を注いでいますが、グラフィック・デザインの制作も、私はこれまでずっと楽しんできました。実を言えば、音楽を作り始めてから今回アルバムを出すまでブランクが出来たのも、自分のデザインのスタイルを磨き、ビジュアル・デザインの学位を取るのに多くの時間を費やしたからなんです。ちょうど振り子みたいに、音楽制作に疲れた時はデザインをやって、デザインに疲れたときは音楽を作って、という感じですね。

けれど、いずれは自分の音楽活動とデザイン活動にもっと関連を持たせたいと考えています。例えばビヨンセ (Beyoncé) の「Lemonade」やコンストラクト・コーポレーション  (The Constructus Corporation) の「Ziggurat」のように、音楽以外のメディアと音楽を結びつけたアルバムにずっと魅了されてきたからです。

 

avant-en-garde.bandcamp.com

Lesley: VeraさんのデビューEP「Sunday」のダウンロード版には、Veraさん自身が描いた40ページの漫画が含まれています。この漫画とEPの楽曲にはなにか関連はありますか? それとも、この漫画はEPとは独立した別の作品ですか。

Vera: あの漫画はEPとはまったく別物ですね。去年の「Bandcamp Friday」のときにおまけとして付けましたが、漫画自体は2019年に描いたものです。もともと私が短い間利用していたPatreonで、私に寄付してくれた人たちのために描くつもりだったのですが、短い漫画を毎月連載し続けるのは私には重荷だとわかったので、そのアイデアは途中でやめにしました。Patreonのページは間もなく削除したのですが、漫画は手元に残っていたので、どこか発表する場所を探そうと思って、結局EPと一緒に出すことになったんです。

あの漫画の出来にはけっこう満足していて、これからもぜひ漫画を描いていくつもりです。漫画制作への情熱はあるので、あとはいつ取り掛かるかだけの問題ですね。

 

Lesley: EP「Sunday」を出した後に、Veraさんは作品のなかでギターやボーカルを以前より多く使うようになり、その結果インディー・ロックの影響をより強く受けた作風になりましたね。これは意識した上での変化ですか?

Vera: 間違いなくそうです! EP「Sunday」は、私が2020年に行った、毎週1曲ずつ作曲するチャレンジから生まれました。このチャレンジは長続きしませんでしたが、何曲か今でもその出来に満足している楽曲を書くことができ、曲作りをより深く探求する手助けにもなりました。

私のアルバムの楽曲の中には、EP「Sunday」以前の作品も含まれています。私のアーティスト名に「etc.」が付いている理由の一つとして、違うジャンルの音楽を作るたびに別の名義を使い分けたくなかった、ということがあります。

陳腐な考えかもしれませんが、私は自分の音楽はすべて、ある意味で自分という人間の延長線にあると思っています。私は、ベッドルーム・ポップやインディー・ポップを聴いて、まるでそのアーティストが同じ部屋にいて、自分の人生について私に話しかけてきているような感覚になるのが好きなんです。それで、私の作る音楽でも、ジャンルに関わらず、そんな雰囲気を作り出すことができたらいいなと思っています。

 

Lesley: Veraさんが現在取り組んでいる一番大きなプロジェクトは、多くの時間とエネルギーを割いて制作している「Online」と「Offline」の2枚のアルバムですね。私たちは、これらのアルバムでどんなことを期待すればいいですか? これまでのシングルやEPとは違ったVeraさんの一面が見られるのでしょうか?

Vera: 「Online」と「Offline」は、これまでの作品で言えば、シングル「hey/hi」よりもEP「Starshy」に近い作風になると思います。とはいえ「hey/hi」はこれらのアルバムに収録される予定なのですが、「Starshy」と同じように、ストーリーが歌詞だけでなく楽曲自体にも関わってくるようなアルバムになる予定です。

音楽的にはインディー・ポップ主体ですが、他のジャンルも貪欲に取り込んでいく予定です。ストーリーに合った作風をその度選んでいく、といった感じです。

 

Lesley: 「Online」と「Offline」の間には、どんな違いがありますか?

Vera:「Online」と「Offline」は姉妹アルバムです。2つのアルバムのストーリーは同じ時期ですが、その内容は異なります。「Online」はインターネット上からの視点から、「Offline」は実世界での出来事に関するアルバムになります。この2つのアルバムのストーリーがどのように絡んでいくのかまだはっきりとは決まっていませんが、互いにもう一つのアルバムのストーリーに言及しながら進んでいくことになると思います。

 

例えば、私は昨年末に「ghosts in a burning building」という曲を発表しました。「Offline」に収録予定のこの曲は、「Online」の1曲目になる「hi」への返答となっています。この2枚のアルバムのストーリーは同時に始まりますが、異なる展開をしていきます。全体的に言うと、まだどれくらい音楽的な違いが出てくるかは分かりません。けれど、「Online」がゆがんだギターやビットクラッシャー、ゲームボーイを全曲に使ったとてもデジタルなアルバムになったので、「Offline」はもっと現実の世界に存在するようなサウンドにしたいと思っています。それで、たぶんアコースティック楽器やフィールド録音を多用することになると思いますが、まだ決まってはいないです。

 

Lesley:次に、Veraさんのネットレーベル「avant en garde」について聞かせてください。私が「avant en garde」についてとても気に入っているのは、すべてのリリースのが統一感のあるデザインになっていることです。とてもカラフルかつサイケデリックで、本当に素敵です。これは意図的なものですか?
 
Vera: 意図的ということになると思いますが、このレーベルはまだ始まったばかりで、これまでリリースされたものの大半は私自身の作品なので、デザインもそれに準じた感じになっています。いずれ決めないといけないことで、ちょっと困っているのですが、ちょうどPRÍNCIPEのようにデザインに統一感を持たせるのは好きなのですが、自分のレーベルのアーティストが、好きな形で音楽をリリースするのを邪魔したくはありません。もし、アーティストが既にカバーアートを決めているのなら、それを尊重したいと思っています。自分がその立場で勝手にカバーアートを決められたら嫌ですしね。

 


Lesley:ここからは本題とは関係のない質問をしようと思います。一番最近フルで聴いたアルバムは何でしたか?
 
Vera: Kississippiの「mood ring」ですね。とても楽しいポップアルバムで、「Around Your Room」は今年聴いた中で一番気に入った曲の一つです。
 
Lesley:一番最近観た映画は何でしたか?感想も教えて下さい。
Vera: ええと、私は実はほとんど映画を観ないんです。少し思い返してみると、最後に観た映画は、Bloodthirsty Butchersドキュメンタリー映画「Kocorono」だったと思います。「Kocorono」は私のお気に入りのアルバムのひとつですが、このドキュメンタリーは、そのアルバムに関するものではありません。25年間も小規模なライブしかできなかった彼らが、素晴らしいアルバムを作り、より大きな舞台に上がろうと努力する姿を描いた、非常に悲しいドキュメンタリーです。

特に、このドキュメンタリーの撮影中に作られたアルバムが商業的に成功しなかったこと、そして、数年後にリーダーが亡くなり、バンドが解散してしまったことを考えると打ちのめされます。――暗い話になってすみません。このドキュメンタリーは、既にBloodthirsty Butchersのファンである人以外に勧めていいのかどうかわからないのですが、アルバム「Kocorono」は誰もが一度は聴くべきだと思います。ポスト・ハードコア/エモ/インディー・ロックの名盤です。
 
Lesley:私も同感です。「Kocorono」はとても感情を揺さぶるアルバムです。私もそのドキュメンタリーをぜひ観なきゃと思います。

それでは、もし残りの人生でどれか1種類のお菓子しか食べられないとしたら、どのお菓子にしますか?
 
Vera: ううん……私はチョコレートが大好きなのですが、それで大丈夫でしょうか?。どんな種類のチョコレートも大好きですが、私は普段70%ダークチョコレートか、ライスクリスピー入りのホワイトチョコレートを食べます。
 
Lesley:もしある日、「ワイルド・スピード」シリーズの新作映画にエキストラとして出演しないかというメールが届いたとします。出演に必要な費用を全部相手が負担してくれるとしたら、あなたはどう答えますか。
 
Vera: 「もちろん!」と答えて、運転ができるふりを必死でしようと思います(汗)。映画業界はストレスがとても多いと聞きますし、「ワイルド・スピード」シリーズの映画もなんだかストレスが多そうなので、たぶん悪い目に遭ってしまうと思いますが、歳をとって肌がレーズンのようにシワシワになってしまった時に、ちょうどいい話のタネになりそうです。あと、その体験を題材に出来の悪いインディー・フォークのアルバムを作って、その目新しさだけでピッチフォーク誌で5.0を獲得することもできるかもしれませんね(笑)


Lesley:そのアイデアを聞くと、「ワイルド・スピード」シリーズをテーマにしたインディー・フォークのアルバムがないことがとても残念に感じられます。もしかすると、いつか出るかもしれませんね……

最後に、この作品を読んでいる人たちに何かメッセージをお願いします。
 
Vera: このインタビュー読んでくださってありがとうございます!

不思議な雰囲気のインディー/エレクトロニック音楽に興味がある方は、ぜひ私のアルバム「Online」をチェックしてみてください。

私のレーベル「avant en grade」は今後も成長を続け、さらに楽しいインディーやエレクトロニック音楽をリリースしていく予定ですので、お楽しみに!

また、私のことをどこかのプラットフォームでフォローしたいかたは、 @veraetcetera で検索してみてください。そして最後に、水を飲んでよく眠ることを忘れないでくださいね。

 

(Lesley, 翻訳: Wata)