【プレイリスト】Bangers + Mash #1 - 2021年9月

こんにちは!

 

今月から、本ブログでは「Bangers + Mash」*1と題して、執筆者のLesleyとWataが選曲したプレイリストを投稿していきます。

 

今月は、「私たちがこの1・2ヶ月によく聴いた曲」をテーマに選曲しました。ぜひお楽しみください。

 

 

選曲解説

【Lesley】

こんにちは!私は(いつもと同じように)ここ1ヶ月で不健康なくらいたくさんの音楽を聴きました。あまりにも多くの楽曲を聴いていると、何度も聴きたくなるような曲に出会うことはなかなかないものです。このプレイリストのために選曲した15曲は、その法則を破った1%の曲の中から選びました。

 

ジャパン (Japan) の「Adolescent Sex」(1978) は、オペラに影響を受けた歌唱法とアンビエント音楽に出会う前のデヴィッド・シルヴィアン (David Sylvian) が作った、シンセサイザーを多用したやんちゃなグラム・ファンクです。

前曲と同様に「ロック」している、デスレイ・ディビス (The Deathray Davies) の「The Aztec God」(2002) は、のちにアップルズ・イン・ステレオ (The Apples in Stereo) に加入するドラマーのジョン・デュフィロ (John Dufilho) が書いた、ちょうど彼の敬愛する60年代のバンドのように、すぐ耳に焼き付くメロディーを持ったパワーポップです。

60年代といえば、ホリーズ (The Hollies) の 「Have You Ever Loved Somebody」(1967)は、トニー・ヒックス (Tony Hicks) の素晴らしいファズ・ギターを除けば、正直1965年のフォーク・ロックに近い、ハーモニー主体のジャングル・ポップの名曲ですね。

Vera, etc.「Cinammon」(2020) はこれまでとは打って変わって、ビットクラッシャーを効かせた低音がうなる、美しいアンビエント楽曲です。もしかすると、デヴィッド・シルヴィアンも最近はこんな曲をよく聴いているのかもしれません。

 

面白おかしいタイトルの「Cuando_estoy_contigo.mp3」(2021) は、私が好きな最近のグループの一つで、「これから」のバンドと思わせるAxolotes Mexicanosが歌うスペイン語のジャングル・ポップです。

一方で、オリオン・エクスペリエンス (The Orion Experience) の「The Cult of Dionysus」(2006) は、過去の音楽シーンを思い起こさせます。ちょうど2000年代半ばのディスコの影響を受けた楽曲を作っていたオブ・モントリオール (Of Montreal) が、もしそれ以前のキャッチーなパワーポップに近い曲を作ったらこうなる、といった感じでしょうか。

オブ・モントリオールが所属していたグループ、エレファント6 (Elephant 6) といえば、アップルズ・イン・ステレオ「High Tide」(1995) は、ロバート・シュナイダー (Robert Schneider) が夏の終わりを惜しむ気持ちを歌う、愛らしく物憂げな曲で、ロジャー・マッギン (Roger McGuinn) もきっとうらやむようなギター・リフがふんだんに使われています。

 

ニック・ナイスリー (Nick Nicely) の「Hilly Fields (1892)」 (1982) は、80年代のミニマルなシンセポップと60年代のバロック・ポップの音像を組み合わせることに不思議にも成功した、時代の先を行くような素晴らしい曲です。

反対に、ボーイ・クレイジー (Boy Krazy) の 「On a Wing and a Prayer」(1993)は、時代の先を行っているとは言えない、完全にその時代の産物といった感じの曲ですが、それがとても味わい深いのです。90年代前半のピート・ウォーターマン (Pete Waterman) だけが書ける、生きる勇気をもたせるような盛り上がりを持ったハウス・ポップです。

先月亡くなったチャーリー・ワッツ (Charlie Watts) を偲んで私が選曲したのは、ローリング・ストーンズ (The Rolling Stones) の「Rocks Off」(1972) です。ルーツ・ロックでありながら、メロディーは後のパワー・ポップを思い起こさせますし、ごちゃごちゃしたプロダクションは、近年のローファイ・インディーに通じます。

 

ウィーザー (Weezer) の「Shiela Can Do It」は、今年発売された2枚のウィーザーのアルバムでは評価の低い方の「Van Weezer」からの曲ですが、正直なところ評価の高い「OK Human」のどの曲よりもキャッチーだと思います。

新しく発売されたビーチ・ボーイズ (The Beach Boys) の素晴らしいボックス・セット 「Feel Flows」に収録された「Sweet and Bitter」(1971)は、ブルブルうなるムーグ・ベースと、曲を引っ張っていくようなギター、マイク・ラブ (Mike Love) の見事なボーカルを持った、ブライアン・ウィルソン (Brian Wilson) の純粋なプロダクションです。

CAPSULEの「tokyo smiling」(2005) は、中田ヤスタカが初期の渋谷系のラウンジ・ミュージックと、この後専念することになるエレクトロ・ハウスを混ぜ合わせることに成功した、シンプルに言うと完璧な曲です。

 

一般にはバブルガム・ポップの一発屋だと思われているジョン・フレッド&ヒズ・プレイボーイ・バンド (John Fred & His Playboy Band) の「What Is Happiness」(1968) は、実験的なサイケデリック・ロックです――この曲が収録されたアルバム「Permanently Stated」は、信じられないかもしれませんが、ほぼ全曲がこの曲と同じ雰囲気をまとっていて、かなり内省的で暗い曲すらあります。

最後に、スキッズ (The Skids)の「Working for the Yankee Dollar」(1979) は、XTCのメロディーとギャング・オブ・フォー (Gang of Four) の政治的で荒削りなアート・パンクを組み合わせたような、クールなニューウェーブです。ビル・ネルソン (Bill Nelson) が作曲したこともあり、彼の同時期の作品に近い出来になっています。

 

 

【Wata】

先月私は、アレサ・フランクリン (Aretha Franklin) の伝記映画「リスペクト」を見たLesleyが私に「一日でアレサの大ファンになった」と感想を話してきたのに触発されて、そのアルバムを順番に聴いていくうちに、すっかりアレサの音楽のとりこになってしまいました。そんなアレサ・フランクリンの膨大な録音から今回私が選曲したのが、「Bridge Over Troubled Water」(1971) と「Don't Let Me Lose This Dream」(1967) です。

 

「Bridge Over Troubled Water」は言わずと知れたサイモン&ガーファンクル (Simon & Garfunkel) の代表曲ですが、ハル・ブレイン (Hal Blaine) のドラムが躍動するS&G版と異なり、キーボードが味深い、この曲のゴスペル的な性格をさらに強調した編曲になっています。S&G版しか知らない方もぜひ聴いてみてください――圧倒的なアレサのボーカルをひとたび耳にすれば、私と同じように「こっちの方がいい!」と思われるかもしれません。

「Don't Let Me Lose This Dream」は、アレサがデビュー当時から所属したコロムビア・レコード (Columbia Records) を離れ、新たなレーベル・アトランティック (Altantic) で録音した初めてのアルバム「I Never Loved a Man the Way I Love You」の一曲です。このアルバムは、「Respect」をはじめ、アレサがこれまで取り組んできたジャズ・ボーカルからソウルに本格的に転向したアルバムとして知られていますが、アレサ本人が作曲に関わったこの曲は、ボサノヴァの影響が強く出ており、力強いソウルの楽曲が多いなかでちょうどよいアクセントとなっています。

 

その「Don't Let Me Lose This Dream」を同時期にカバーしたのが、イギリス出身のダスティースプリングフィールド (Dusty Springfield) です。ダスティーは、代表作「Dusty in Memphis」にみられるように、この時期を境にソウルにだんだん接近していきますが、ここで取り上げたのは1964年の「Will You Love Me Tomorrow」です。キャロル・キング (Carole King) の代表曲でもあるこの曲は、のちにフォー・シーズンズ (The Four Seasons) がかなり凝ったアレンジでカバーしていますが、このダスティー版のシンプルで力強いアレンジがいちばんの名演だと思います。

 

ドリフターズ (The Drifters) の「If You Don't Come Back」は、Lesleyいわく「1971年のテンプテーションズを1963年のドリフターズが演奏した」ような楽曲です。エルヴィス・プレスリー (Elvis Presley)がこの曲をそっくりそのままのアレンジで1973年にカバーしていますが、そこでもまったく古いアレンジと感じられないところが、この曲の先進性を示しています。

 

ウィーザーのリーダー、リバース・クオモ (Rivers Cuomo) がデビュー間もない1995年に書いたデモ「Longtime Sunshine」は、「ウィーザーSurf's Up」とでも言うべき曲です。音楽的な自信と、デビュー2年目には早すぎるロック・スターの世界に対する失望と諦念の両方が色濃く出たこの曲は、未発表アルバム*2と運命を共にし、2007年まで発表されなかったという点でも、どことなくブライアン・ウィルソンを思い起こさせます。

 

20世紀前半のブロードウェイ・ミュージカルの大家、コール・ポーター (Cole Porter) が1953年のミュージカル「Can-Can」のために書いた「Live and Let Live」の、本人が歌うピアノデモを聴くと、コールの朴訥とした歌声も相まって、きっとコールが半世紀後に生まれていればランディー・ニューマン (Randy Newman) のようなアルバムを作ったかもしれないな、と思わずにはいられません。 

 

コール・ポーターと同時期にブロードウェイで活躍したジェローム・カーン (Jerome Kern) が作曲し、フレッド・アステア (Fred Astaire) とジンジャー・ロジャース (Ginger Rogers) が主演した映画「有頂天時代」 (Swing Time, 1936) で初披露された「A Fine Romance」は、ここではなんと1937年ごろの日本で、「素敵なローマンス」という題名で録音されたものを取り上げています。アメリカ出身の日系人ヘレン隅田と、同じくハワイ出身のウクレレ奏者・灰田勝彦がデュエットで歌うこの陽気な録音を聴きながら、これからたった5年もしないうちにこの曲の故郷であるアメリカと日本が戦争に突入したことを考えると、非常に暗澹とした気持ちにさせられます。

 

7月に発売され、この曲が収録されている編集盤、「ニッポン・スウィングタイム 戦前のジャズ音楽 vol.1」(ビクター)の曲目を見ると、他にもアーヴィング・バーリン (Irving Berlin) の「Blue Skies」「Alexander's Ragtime Band」リチャード・ロジャース (Richard Rodgers) と ローレンツ・ハート (Lorenz Hart) のコンビが書いた「Blue Moon」など、ボーカル・ジャズを聴くならば避けて通れないような錚々たる面々の楽曲があり、こうした曲が戦前の日本でどのように受容されていたのか、想像する楽しみがあります。

 

この編集盤でもカバーされているベニー・グッドマン (Benny Goodman) の代表曲 「Sing, Sing, Sing」を作曲したルイ・プリマ(Louis Prima) が、キーリー・スミス(Keely Smith) とデュエットした1958年のシングル「That Old Black Magic」も、同じくブロードウェイ出身のハロルド・アーレン (Harold Arlen) *3ジョニー・マーサー (Johnny Mercer) *4 が書いた曲です。ここで聴けるアレンジをそのまま使ったカバーを、のちにボブ・ディラン (Bob Dylan)が発表していますが、私はディラン版を先に聴いて、この曲を聞いたときに「元ネタはこれだったのか!」と思わずびっくりしました。

 

最後に、ニューヨーク・ブルックリン出身のゼイ・マイト・ビー・ジャイアンツ (They Might Be Giants) が10月に発売する新作「BOOK」から昨年さきがけてリリースされたシングル「I Lost Thursday」を取り上げます。ロックダウン下の世情を反映し、ジョン・フランズバーグ (John Flansburg) が主となって書いたこの曲は、くねくね揺れ動く不思議な曲構成と、60代を迎えても衰えない子どものような実験的精神を持ち合わせており、TMBGが決して「Birdhouse in Your Soul」だけのバンドでなく、「現役」のバンドである証左と言えるのではないでしょうか。

 

☆Bangers + Mash #1 - 2021.9

(ピンク色はLesley選曲、緑色はWata選曲)

1. Japan - Adolecent Sex (1978)

2. The Deathray Davies - The Aztec God (2002)

3. Aretha Franklin - Bridge Over Troubled Water (1971)

4. Vera, Etc. - Cinnamon (2020)

5. Axolotes Mexicanos - Cuando_estoy_contigo.mp3 (2021)

6. The Orion Experience - The Cult of Dionysus (2006)

7. Aretha Franklin - Don't Let Me Lose This Dream (1967)

8. Frank Sinatra - Feet of Clay (1952)

9. ヘレン隅田 & 灰田勝彦 - 素敵なローマンス (1937)

10. Ben E. King - First Taste of Love (1960)

11. The Hollies - Have You Ever Loved Somebody? (1967)

12. The Apples in Stereo - High Tide (1995)

13. Nick Nicely - Hilly Fields (1892) (1982)

14. They Might Be Giants - I Lost Thursday (2020)

15. The Drifters - If You Don't Come Back (1963)

16. The Beach Boys - It's a New Day (1971)

17. Cole Porter - Live and Let Live (1953)

18. Rivers Cuomo - Longtime Sunshine (1995)

19. METAFIVE - Luv U Tokio (2016)

20. Boy Krazy - On a Wing and a Prayer (1993)

21. Elvis Presley - Put Your Hand in the Hand (1972)

22. The Rolling Stones - Rocks Off (1972)

23. Weezer - Sheila Can Do It (2021)

24. The Beach Boys - Sweet and Bitter (1972)

25. CAPSULE - tokyo smiling (2005)

26. Jimmy Smith - The Way You Look Tonight (1956)

27. John Fred and His Playboy Band - What Is Happiness (1967)

28. Dusty Springfield - Will You Love Me Tomorrow (1964)

29. Louis Prima & Keely Smith - That Old Black Magic (1958)

30. Skids - Working for the Yankee Dollar (1979)

 

 

 

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*1:有名なイギリス料理の名前ですが、元ネタはこちらです

*2:「Songs from the Black Hole」と題されたロック・オペラのアルバムでしたが、未完成に終わり、「Pinkerton」が代わりに発売されました。

*3:ハロルドが映画「オズの魔法使」 (The Wizard of Oz, 1939) のために作曲し、ジュディー・ガーランド (Judy Garland) が歌った「Over the Rainbow」は、ボーカルジャズに疎い人でも必ず一度は耳にしたことがあると思います。

*4:映画「ティファニーで朝食を」(Breakfast at Tiffany's, 1961)でオードリー・ヘップバーン (Audrey Hepburn) が歌った「Moon River」などが代表曲の作詞家です。