完成したのにも関わらず発売未定のボックス・セット『Feel Flows』

 昨年の末頃から、ビーチ・ボーイズの「Sunflower」~「Surf's Up」期(1969-71)年の音源を集めたボックス・セット「Feel Flows」が製作されているとの情報が出回りはじめました。

 昨年12月の季刊ファン誌「Endless Summer Quarterly」の記事では、アル・ジャーディンとブルース・ジョンストンが5枚組のボックス・セット「Feel Flows」の制作について触れたことが述べられています。今年の2月には、Youtubeのライブ配信で、ビーチ・ボーイズサウンドエンジニアであるマーク・リネットが、"San Miguel"などの曲を再生しつつ、「Feel Flows」について「秋頃の発売を望んでいる」と述べました。

  

 このボックス・セットの製作の進捗状況は長らく不明でしたが、先月に入って少しずつ情報が入ってきました。2017年の「Sunshine Tomorrow」のライナーノーツを執筆したHowie Edelsonは、今年6月20日の掲示板の投稿で、「Feel Flows」のライナーノーツのためにブルース・ジョンストンやブライアン・ウィルソンにインタビューを行ったことを明らかにし、7月28日には、収録曲の選定、ライナーノーツ、アートワーク、ミキシング、マスタリング全てが完了したと述べています。(なお、6月10日にはEndless Summer Quarterlyが「ある大ニュースがもうすぐ発表される」とFacebookに投稿しましたが、この投稿は「Feel Flows」とは関係がなかったことが、Howieによって明言されています。)

 

 しかし、昨日30日、現時点で「Feel Flows」を発売する予定がないことHowieによって明らかにされました:

(前略) (このボックス・セットは)間違いなく存在します。間違いなく完成しています。そして、間違いなく「Feel Flows」という名称です。

アル・ジャーディンとブルース・ジョンストンの二人とも公の場で「Feel Flows」について話しています。

マーク・リネット、アラン・ボイドと私は二年かけて「Feel Flows」の製作に取り組みました。(中略) 私は、レーベルに「Feel Flows」の発売の許可を出させ、二度も企画中止の危機から救いました。(中略)「Feel Flows」の発売は現時点で計画されていません。

(引用者訳)

 

 この情報を受けて、現在ファンは失望と混乱に包まれています。Redditでは有志が「Feel Flows」の発売をビーチ・ボーイズのメンバー、マーク・リネットおよびキャピトル・レコードに対して求める署名活動をchange.orgで開始し、現在200人ほどの署名が集まっています。リンクは以下のとおりです:

www.change.org

 

 

どうして発売できないのか

 Howieの「発売は現時点で計画されていない」という投稿が何を意味するかは、ファンの間で解釈が分かれています。一つは、「Feel Flows」の発売はキャンセルされたという解釈、もう一つは、「Feel Flows」の発売はキャンセルされていないものの、何らかの事情により発売日を決められずにいるとの解釈です。

 

 さらに、どのような理由で「発売は現時点で計画されていない」のかについても、諸説紛糾しています。

 現在の情勢から最も容易に想像できる理由は、新型コロナウイルスの世界的流行による影響により、生産やマーケティングに支障が生じている可能性でしょう。

 しかし、Howieは7月14日に「パッケージ(生産)の遅れは、発売が遅れている理由ではない」と述べています。 更に、「The Beach Boys FAQ - All That's Left To Know About America's Band」や「Dennis Wilson: The Real Beach Boy」といった書籍の著者であるJon Stebbinsは、掲示板の投稿コロナウイルスマーケティングの問題、あるいはレーベルの都合によって発売が遅れている可能性を否定し、ビーチ・ボーイズのメンバー自身が発売の遅れの原因であることを示唆しています。

 一方で、Super Deluxe Editionというサイトには、Bruce Kelsoという人物が、この時期のビーチ・ボーイズには外部の人物が作曲に関わっているケースが多いため、収録される楽曲の権利に関する法的な問題が生じていると投稿しています。

 

もし発売されなかったら?

 それでは、「Feel Flows」が今年中に発売されなかった場合、あるいは万一キャンセルされてしまった場合、収録される予定の音源はどうなるでしょうか?

 まず、発売が来年に先送りされた場合は、昨年の「The Beach Boys 1969: I'm Going Your Way」と同様に、EU著作権法によってレコード会社の権利保持のために50年以内に発表する必要のある、1970年に録音された未発表曲・コンサートが今年末に発表されると予想されます。具体的には、"Seasons in the Sun" "Big Sur" "My Solution"などの未発表曲、および1970年10月13日のBig Sur Folk Festivalで録音されたコンサートです。

 加えて、1970年にブライアン・ウィルソンがFred Vailのためにプロデュースしたカントリーのカバーアルバム「Cows in the Pasture」からも、録音された15曲のうち1曲が「Feel Flows」に収録される可能性があることが、昨年末にYoutubeで発表されたビデオでFred自身により明らかにされています。昨年このアルバムのミキシング作業が行われており、著作権上の事情を考慮すると、マリー・ウィルソンの「The Break Away EP」を昨年発売したOmnivoreのようなレーベルから年内に発売される可能性があります。

 

 また、万一発売がキャンセルされてしまった場合は、今年及び来年の年末に発売される著作権対策リリースに、「Feel Flows」のために用意された音源が流用されることが予想されます。その場合、2018年の「Wake the World」「I Can Hear Music」のように、まとまった分量の音源が収録されるかもしれません。

 

 

 現在かなり情報が錯綜しており、「Feel Flows」の発売がいつになるか、正式発表はいつ行われるか、あるいはそもそも発売されるかどうかはっきりしていない状況です。いちファンとしては、発売の妨げとなっている原因ができるだけ早く解決され、「Sunflower」「Surf's Up」というビーチ・ボーイズの歴史のなかでも重要な時期の貴重な音源が、無事にファンの手元に届くことをただただ祈るばかりです。