マーク・リネット&アラン・ボイドとのQ&A@Discord [パート2]

(先月のこの記事の続きです。)

 

 

―マークに質問ですが、ブライアンの監修で『Pet Sounds』のステレオ・リミックスに携わったのはどのような感じだったのですか?なにか興味深い逸話はありますか?

それと、『Smiley Smile』をステレオにリミックスするのはどうでしたか?モノ・ミックスと比べて、何か新しい発見はありましたか?

マーク: 1990年代当時は、私がミックスした後にブライアンがスタジオに来て、指示を出しました。『Pet Sounds』に関しては、ミックス作業中に私が参照できるモノ・ミックスがあったので、ブライアンから変更を指示されることはあまりありませんでした。

『Smiley Smile』についての発見といえば、1" 8トラックまで立ち戻ることで音質を向上できたことです。15年ほど前に、オリジナルのモノ・ミックスが、実はフェード・アウトやその他の編集を加えるために複製されたもので、元となるミックスに比べて音質が明らかに劣っていることが判明しました。(2012年にはじめて発売された)ステレオ・ミックスでは、モノでは分からなかった細かい部分まで聞けるようになっていると思います。

 

―ブライアンに自分のミックスを聞かせるときには、きっと興奮したことと思います。

マーク: ブライアンや他のメンバーが素晴らしい仕事をしたからこそ、このようなミックスができたんです。

アラン: 『Smiley Smile』のステレオ・ミックスはお気に入りの仕事の一つでした。オリジナルのモノ・ミックスは未完成で(いくつかの曲にはフェード処理がされていませんでした)、アルバムの出来に多少影響を与えていましたし、テープの切り貼りが多く、とてももろい状態でした。それで、アルバムの生産に使われたモノのマスター・テープは元のセッション・マスターから一段階離れたものでした。

 

 

―1968年のセットに収録された音源は、以前から大半の存在を知っていたのか、それとも、今回調査して新たに見つかったものもあるのですか?「Be Here In The Morning Darling」と「Well You Know I Knew」は、だれもその存在を知らなかったので、みんなが度肝を抜かれましたが、もしかして、お二人は以前からその存在を把握していたのですか?

アラン: 過去15年間以上にわたり行っている保存作業の過程で、既にほとんど全ての未発表曲について把握していました。リールの保存作業を行うたびに、大まかな参考ミックスを作ってライブラリに追加しているので、内容はデータベースに記録されています。

マーク: どのテープからも、素晴らしいものが見つかっています。それに、ほとんどの調査と音源の移し替えが終わっているので、(今回のセット)のようなプロジェクトをまとめるのも割とすぐにできます。

 

 

―『Adult Child』*1についての考えを教えてください。現在まで未発表であること、それと将来の発売の可能性についてどう思いますか?

アラン: 『Adult Child』はビーチ・ボーイズにとって逆境の時期に製作され、収録曲もかなり奇妙な曲が多いので、当時却下されてしまったのは不思議ではないと思います。けれども、発売されるべきだと思います!

 

 

―「Lazy Lizzie」*2という曲にはまっているのですが、この別バージョンはどれくらいありますか?デモや別テイク、ブートにないオーバーダブなどはありますか?

アラン:  『Holland』(の付属EPに)収録されている「Better Get Back In Bed」の未編集の完全版に、「Lazy Lizzie」のAメロと同じメロディーのピアノの演奏が入っています。それ以外は、ブートのミックスがマルチテープの内容とほぼ同じものです。

 

―「Pa Let Her Go Out」という題名の、「Better Get Back In Bed」のボーカル入りの別バージョンがあるというのは本当ですか?

アラン: ええ、本当です!"Pa let her, pa let her go out/ such a good looking prince"という歌詞です。『Mt. Vernon & Fairway』のリールにはいろいろと興味深いものが入っています。『Holland』のボックス・セットもぜひやりたいですね。

 

 

―『I Can Hear Music : The 20/20 Sessions』で気に入ったのが、デニスが歌う「All I Want To Do」の別バージョンでした。デニスとお友達の女性の「バック・ボーカル」*3の話はとても有名ですが、この話と、謎の女性の正体について、なにか情報はありますか?

アラン: デニスの効果音のリールですか…女性が誰かについては全くわからないです。

マーク: ずっと前にスティーブン・デスパ―が「All I Want To Do」のフェードの録音についてインタビューで答えていましたよ。*4 「本物」らしさを保つため、新しいミックスには別の部分を加えておきました。

 

 

―もし今回発売されたセッション音源を用いて『Friends』と『20/20』を作り直すとしたら、どのような曲順になりますか?

アラン: 『Friends』と『20/20』の曲順については考えさせてください…個人的には、そのままの方が好きです。『20/20』のB面はまさに音の旅だと思います。

マーク: 曲順については、今回のセットでオリジナルと同じ曲順に別ミックスを並べて聞いてみて、とても良かったので、元の曲順はうまく出来ていると思います。

 

 

―「Good Timin'」にミスがあったため、『Light Album』の2015年のハイレゾ・リマスターはほとんどのサイトから取り下げられてしまったのですが、キャピトルが代わりを作っていないので、iTunesを除く大半のサイトで未掲載のままとなっています。

 それで思ったのですが、数年前に出たエルビス・プレスリーのボックス・セット(最初からリマスターし直した音源が、オリジナルのジャケットとともにボーナス・トラック付きで収録された)のようなものが、(できればマークの新しいリマスターで)キャピトルから今後発売される可能性はありますか?

アラン: 『Light Album』のハイレゾですか?それはCDで出たんですか?

マーク: わからないです。確かにキャピトルに提案することはできますが、つい最近再発されたばかりなので、キャピトルがどれくらいの需要を想定するか見当がつきません。キャピトルは『Light Album』をレコードでも再発したと思います。

 

 

『Brian Wilson's Secret Bedroom Tapes』という記事に、カメラマンのエド・ローチが、ブライアンがマリー・ウィルソンと録音した第二のおとぎ話*5のカセット・テープを持っていると書いてありましたが、本当ですか?

アラン: あの記事は頭痛の種でしたね…私はそのカセットを実際に聞いたことはないです…必ずしも存在しないというわけではないのですが、聞いたことはありません。

 

 

―『I Can Hear Music』に収録された「Been Way Too Long」のうち、1968年に録音されたパートの順番は分かっていますか?

マーク: 「Been Way Too Long」は私とアランが録音された全てのパートを、聴きやすさを第一に考えてまとめたものです。1968年に曲がまとめられた痕跡はありません。

アラン: ほとんどのパートの録音日は判明しています。もしかすると、いつか「Been Way Too Long」のどのセッションがどの順番だったかを見極めるためにデータベースと参考ミックスに立ち戻ってみるかもしれません。今回に関しては、これまで知られていなかったパートを収録することと、聴きやすいように編集することを主に心がけました。

 

 

―『Sunflower』の蔵出しリリースに収録される可能性のある音源で、私たちが驚くと思うものはありますか?また、「Shortenin' Bread」の録音の中で、特筆すべき知られていないものはありますか。

アラン: ほとんどの『Sunflower』の音源はどこかの時点でブート化されていますし、私たちも『Made In California』にいくつか素晴らしい曲を収録しました。けれども、個人的には「All I Wanna Do」を「分解」するのが楽しみです。それと、「Forever」の初期のデモはありませんが、歌詞の一部とボーカルが異なる別ミックスがあります。また、1970年にイースタン航空のCMのために製作された、「This Whole World」の終わり方の異なるバージョンがあります。割と良いですよ。

1974年から75年頃に録音された複数のブライアンのジャム・セッションで、「Shortenin' Bread」のリフを使ったものがありますが、ボーカル入りのものはないです。

 

 

―「I've Got A Friend」(デニスの未発表曲)の高音質のサウンドボード録音はありますか?

アラン: 残念ながら、「I've Got A Friend」にはとても簡単なバック・トラックしか残っておらず、ライブ・バージョンもないです。

 

 

―数年前に出回ったドン・ゴールドバーグの録音*6について詳しく知っていますか?

アラン: 実は数年前にドン・ゴールドバーグがスタジオに来ました。感じのいい人でした。「Sweet And Bitter」で彼がしたことは本当に気に入っています。「Sweet And Bitter」のベーシック・トラックは私たちの手元にありますが、マイクのボーカルの入ったテープはまだドンが持っています。

 

 

―「Time To Get Alone」のアカペラで、Aメロのバック・ボーカルがないのには何か理由があるのですか?それと、「Time To Get Alone」の歌詞をいつ誰がなぜ変えたのか分かる録音は残っていますか?

アラン: 「Time To Get Alone」のバック・ボーカルの一部が抜け落ちているのには、特段の事情があるわけではなく、短いスケジュールと締切に追われての、「やっちまった」というようなミスでした。それに、抜け落ちてしまったパートが単体で収められているのは初期のマルチテープだけ(最終版のマルチ・テープではインストと一緒に入っています)ので、簡単に見落としてしまいました。いつか可能な時に修正版を出したいと思っています。すみません。

マーク:同感です。修正版は完成しているので、将来どこかに収録したいと思います。

 

 

―映画『Love & Mercy』で1960年代のブライアンを演じたポール・ダノはどんな感じでしたか?

マーク: ポールは一緒に仕事をするのに素晴らしい相手でした。本当に感じがよくて、それに、彼はブライアンの役で演奏や歌もできたので、映画の出来に大きく貢献していたと思います。また、映画の中で、(60年代の)ビーチ・ボーイズの録音に不可欠だった存在で、私の憧れの人でもあるチャック・ブリッツ*7の役を演じたのは、素晴らしい経験でした。

 

 

―映画スターですね!

マーク: レコーディング・エンジニアの役に実際のレコーディング・エンジニアを割り当てる…理にかなっていますね。映画のスタッフはスタジオの場面を本物らしくするために労力を惜しみませんでした。映画のメイキングのドキュメンタリーを作れたらよかったなと思います。セット担当がウェスタンの第3スタジオを1966年当時のまま再現した仕事は素晴らしかったです。

 

 

―本当にその通りで、「Good Vibrations」の録音場面はまるでドキュメンタリーを観ているかのようでした。

アラン: 映画製作時にウェスタンの第3スタジオにマークを訪ねました。まるでタイムマシンのようで、信じられないほど素晴らしかったです。

 

 

―「Good Vibrations」の場面は比類ない素晴らしさでした。本当に気に入りました。

マーク: ええ。私には映画のレコーディング場面が正確かどうかは分かりますが、ギターやドラムキットがどうかはわかりません。1966年のシーンはまるで当時撮られたドキュメンタリーのように撮ることにしていたので、ビル・ポーラッド監督は全てを正確にすることにこだわりました。

 

 

イーストウェスト・スタジオ(以前のウェスタン・スタジオ)が寛大にも映画撮影の許可を出してくれたことは嬉しいですね。スタジオの公式サイトにもそのことを誇って書いてあります。

マーク: そのとおりです。私たちは一週間と半分もスタジオ全体を貸し切りました。

 

 

アラン: 是非聞きたいのですが、みなさんは、新しいリスナーにビーチ・ボーイズに興味を持ってもらうために、どういったことが役立つと思いますか?

 

(たくさんの回答がありました)

 

マーク: 私たちは、『Sunshine Tomorrow』と1968年のセットが、これまでとは違う新しい層に、1967年以前とは違うビーチ・ボーイズの音楽の魅力を伝えられたと思っていますし、それが続けばいいなと思います。『Wild Honey』のステレオ・バージョンのLPと『Sunshine Tomorrow』の売上の多さに驚きました。予想していたよりずっと多かったからです。発売前により多くプレスするためにLPの出荷を抑えていたくらいです。

 

アラン: ビーチ・ボーイズはいろいろな種類の音楽を本当に上手くこなしています。

 

マーク: ビーチ・ボーイズの素晴らしいところは、未完・完成かかわらず多くの素晴らしい未発表曲が残っている点で、そのおかげでこうしたセットもより興味深いものになっているのだと思います。

 

アラン: 私たちがいなくなったずっと後にも、これらの録音は熱心に聴かれ続けます。今や大学でも「ブライアン・ウィルソン」と「ビーチ・ボーイズ」を教えているのです。

 

 

―「ビーチ・ボーイズの音楽」はインディアナ大学で毎年教えられています。

アラン: インディアナ大学のその講座(の生徒)と何度か話したことがあります。素晴らしい人たちでした!

 

 

―今回のQ&Aと、このDiscordのサーバー全般についてどう感じていますか?これからもQ&Aをぜひやりたいと思いますか?

アラン: これはとても良いと思います!これからときどき時間がある時に訪れて、いくつか質問に答えてもいいと思ったくらいです。

マーク: 楽しかったですし、いつかもう一度したいと思います。

 

(終)

*1:1977年初めにブライアンが中心となって製作したビーチ・ボーイズのアルバムで、「Still I Dream Of It」などが収録されましたが、結局発売されず、現在に至るまで未発表のままとなっています

*2:『Love You』期のブライアンの未発表曲で、「学校から帰る途中の女の子に車から声を掛ける」という不審者そのもののブライアンらしい歌詞で知られています

*3:「All I Want To Do」の最後に小さく聞こえる喘ぎ声のことです

*4:こちらのスレッドで引用されているデスパ―の発言のことだと思います

Did Dennis invent the celebrity sex tape with All I Want to Do?

*5:『Holland』についてきたEP『Mt. Vernon And Fairway』の第二弾といったところだと思います

*6:1970年代前半にブライアンがドン・ゴールドバーグという人と録音したとされる「Sweet And Bitter」「Out In The Country」(ブートで広く出回っているのとは別バージョン)「Fading Love Song」の三曲で、2013年に突如Youtubeで公開され話題となりました

"Sweet and Bitter" and "Out In The Country"

*7:1960年代にビーチ・ボーイズの録音を担当したレコーディング・エンジニアで、1967年に至るまで多くのビーチ・ボーイズの録音に携わりました

Chuck Britz - Wikipedia