【ビーチ・ボーイズ】「Sail On Sailor - 1972」:収録予定曲の紹介

『Sounds of Summer』のリリースに続いて、キャピトル/UMeは今秋新しいビーチ・ボーイズアーカイブ盤を発売します。このリリースでは、しばしば見過ごされてしまうものの、極めて重要なアルバム――1972年発売の『Carl and the Passions - "So Tough"』と1973年発売の『Holland』が掘り下げられる予定です。

*1  

 

今年の4月に、『Sounds of Summer』の拡大版に伴うプレス・リリースで上記のように予告されていた、1972年録音の2つのアルバムを扱ったボックスセットですが、今週火曜日に「Sail On, Sailor - 1972」として正式に発売が発表されました。発売日(11月18日)までまだ1ヶ月以上ありますが、この機会に本ボックスの収録予定曲について、現時点で分かっている情報をもとに軽く紹介していきたいと思います。

 

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目次

 

 

収録内容の紹介

ディスク1

(太字は未発表曲、*はCD2枚組に収録の楽曲)

[Carl and the Passions - "So Tough"]

1. You Need A Mess Of Help To Stand Alone 3:27 *
2. Here She Comes 5:07 *
3. He Come Down 4:43 *
4. Marcella 3:51 *
5. Hold On, Dear Brother 4:42 *
6. Make It Good 2:32 *
7. All This Is That 3:58 *
8. Cuddle Up 5:30 *

[Bonus Tracks]
9. The Road Not Taken (Demo) 2:23 *
10. All This Is That (A Cappella) 3:12 *
11. He Come Down (2022 Mix) 4:38 *
12. You Need A Mess Of Help To Stand Alone (Track & Backing Vocals) 3:24 *
13. Marcella (A Cappella) 3:43 *
14. Make It Good (Alternate Mix With Intro) 3:09 *
15. Cuddle Up (Alternate Mix) 4:48 *
16. Carl & The Passions / Pet Sounds Promo (1972) 1:03 *

 

 1-8はオリジナル盤の収録曲です。昨年の『Feel Flows』に収録の『Sunflower』『Surf's Up』と同様、リミックスはされておらず、マーク・リネットによる最新のリマスターとなります。2000年の2 in 1リマスターや2015年のハイレゾリマスターに比べると、一部の楽曲の長さが数秒程度短いのが目に付きますが、最後の無音部分を切り詰めたのだと思われます。

 9「The Road Not Taken」は「All This Is That」のもととなったデモで、ブートレグとしても出回っていない音源です。「All This Is That」の歌詞は、もともとロバート・フロストの「The Road Not Taken」という詩を下敷きとしており、デモ版はこの詩に「All This Is That」につながる曲をつけたものになるのではないか…と勝手に予想しています。

11「He Come Down (2022 Mix)」は、アルバム収録曲の新ミックスという、『Feel Flows』ではほとんど見られなかったこのボックスでの新趣向の一つです。6月に発売された『Sounds of Summer』の拡大版には、「Marcella」と「You Need a Mess of Help to Stand Alone」の新ミックスが収録されましたが、この新ミックスは、『Sounds of Summer』のようなベスト盤向きのものではなく、むしろ楽曲の埋もれていた部分を強調するようなミックスになるのではないでしょうか。

12-13は、実は『Feel Flows』の末尾に収録されたものの(おおむね)再収録です。しかし、公式サイトの表記やタイムスタンプを見る限りでは、「Marcella」のアカペラは前後どちらかが長い新ミックス、一方「Mess of Help」のリードボーカル抜きのミックスは『Feel Flows』からそっくりそのままの再録となるようです。

14-15「Make It Good (Alternate Mix With Intro)」「 Cuddle Up (Alternate Mix) 」は、それぞれ後からオーケストラをオーバーダブした楽曲ですから、オーケストラがなくシンプルで、生身のデニスが聴けるような別ミックスになるのではないかと私は予想しています。しかし、「Cuddle Up」はシングルで(オーケストラ入りの)別ミックスが発表されているので、そちらが収録される可能性も(低いですが)存在します。

 

ディスク2

[Holland]

1. Sail On, Sailor 3:20 *
2. Steamboat 4:35 *
3. California Saga (Big Sur) 2:56 *
4. California Saga (The Beaks Of Eagles) 3:49 *
5. California Saga (California) 3:23 *
6. The Trader 5:07 *
7. Leaving This Town 5:47 *
8. Only With You 3:01 *
9. Funky Pretty 4:13 *

[Mt. Vernon and Fairway (A Fairytale)]
10. Mt. Vernon And Fairway (Theme) 1:34 *
11. I'm The Pied Piper (Instrumental) 2:20 *
12. Better Get Back In Bed 1:38 *
13. Magic Transistor Radio 0:48 *
14. I'm The Pied Piper 3:01 *
15. Radio King Dom 2:40 *

[Bonus Tracks]
16. We Got Love (2022 Mix) 5:29 *
17. Hard Time 3:17 *
18. Carry Me Home 3:26 *
19. California Saga (The Beaks Of Eagles) [1973 Single Mix] 3:49 *
20. California Saga (California) [1973 Single Mix] 3:17 *
21. Sail On, Sailor (Track - 2022 Mix) 3:21 *
22. Holland Promo 1 (1973) 1:04 *

 

1-15はオリジナル盤と付属のEPの収録曲です。iTunesでは「Magic Transistor Radio」と「I'm the Pied Piper」が"2022 Mix"と表記されていますが、公式サイトでの表記や、他のオリジナル盤収録曲がリミックスされていないことを考える限り、これらは誤表記であると思われます。

16「We Got Love (2022 Mix)」は、『Holland』発売直前になって「Sail on, Sailor」と差し替えられた、リッキー・ファター、ブロンディー・チャップリンマイク・ラブの共作曲で、当時ドイツ盤に誤って収録されたものの新ミックスです。このミックスは、ドイツ盤よりは長いですが、2015年からiTunesで配信され、2016年のAnalogue Production盤にも収録されたものよりは30秒程度短くなっています。オリジナル・ミックスは『Holland』本編と比べても若干くすんだ音が特徴的ですが、おそらくこの新ミックスでは、もっと明るい音になるのではないでしょうか。

We Got Love

We Got Love

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17「Hard Times」は同じくブロンディーとリッキーの共作で、2000年代に『Get the Boot』というブートレグに収録されて、初めてその存在が広く知られました。『Holland』には収録されませんでしたが、発売直前になって録音された「Sail on Sailor」を除いて、『Holland』セッションで最後に録音された曲となります。

18「Carry Me Home」はデニスの曲で、早い話がこのボックスのいちばんの目玉と言い切ってよいでしょう。『Holland』では、デニスは自作の「Steamboat」「Only with You」を含め一切リード・ボーカルを取りませんでしたが、この曲では70年代半ばに声を枯らしてしまう前のデニスが、ブロンディーとボーカルを分け合って歌うのが聴けます。2013年のボックス・セット『Made in California』に収録が検討されたものの、デニスが死について歌う歌詞に難色が示されたため未発表に終わりましたが、このたびようやく正式に発表されることになりました。

19・20は本編の楽曲のシングル・ミックスですが、「California」のシングル・ミックスが当時実際に発表され、その後も『Ten Years of Harmony』(1981)や『The Best of the Brother Years』(2000)などに収録されたのに対し、「The Beaks of Eagles」のほうは、(そもそもシングルに収録されたことがないので)これまで存在自体が知られていませんでした。この曲のシングルへの収録が当時検討されていたことを示す貴重な資料ですが、いったいどんな違いがあるのか楽しみです。

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21「Sail on Sailor (Track)」に(2022 Mix)とわざわざ注意書きがあるのは、この曲のバックトラックが2001年の編集盤『Hawthorne, CA』で既に発表されているからです。しかし、『Hawthorne, CA』版では曲の最後にコーラスが浮かび上がってくるような編集がされていましたが、この新ミックスは、ボーカルの一切入っていないものになると思われます。

 

ディスク3・4

ディスク3

[The Beach Boys Live at Carnegie Hall, November 23, 1972 - 1st Set]
1. Concert Intro: Jack Rieley (Live At Carnegie Hall) 2:07
2. Sloop John B (Live At Carnegie Hall) 3:08
3. You Need A Mess Of Help To Stand Alone (Live At Carnegie Hall) 3:41 *
4. Leaving This Town (Live At Carnegie Hall) 6:11
5. Darlin' (Live At Carnegie Hall) 3:34
6. Only With You (Live At Carnegie Hall) 4:02 *
7. Heroes And Villains (Live At Carnegie Hall) 3:58
8. Long Promised Road (Live At Carnegie Hall) 4:37
9. Don't Worry, Baby (Live At Carnegie Hall) 4:42
10. Student Demonstration Time (Live At Carnegie Hall) 5:29
11. I Get Around (Live At Carnegie Hall) 2:44

 

ディスク4

[The Beach Boys Live at Carnegie Hall, November 23, 1972 - 2st Set]
1. Intro To 2nd Set: Jack Rieley (Live At Carnegie Hall) 0:26 *
2. Marcella (Live At Carnegie Hall) 3:28 *
3. California Saga (California) [Live At Carnegie Hall] 3:31
4. Help Me, Rhonda (Live At Carnegie Hall) 5:56
5. Let The Wind Blow (Live At Carnegie Hall) 5:27
6. Wonderful / Don't Worry, Bill (Live At Carnegie Hall) 6:03
7. God Only Knows (Live At Carnegie Hall) 2:55
8. Do It Again (Live At Carnegie Hall) 3:53
9. Wouldn't It Be Nice (Live At Carnegie Hall) 2:47
10. Wild Honey (Live At Carnegie Hall) 5:38
11. Good Vibrations (Live At Carnegie Hall) 6:35
12. California Girls (Live At Carnegie Hall) 2:53
13. Surfin' USA (Live At Carnegie Hall) 2:31
14. Fun Fun Fun (Live At Carnegie Hall) 2:52
15. Jumpin' Jack Flash (Live At Carnegie Hall) 5:03 

 

 1972年11月にニューヨークのカーネギー・ホールで行われたライブの全曲が、ディスク3~4に収録されています。ブロンディとリッキーをメンバーに迎え、ビーチ・ボーイズがライブ・バンドとして最も充実していた時期の録音ですので、大きく期待してよいと思います。この日は2回のライブが行われていますが、どの録音が使われているかはまだ分かりません。

 なお、この日のライブからは既に数曲が公式発表されています。詳しくはこちらのサイトをご覧ください。また、『Sail on Sailor - 1972』からの先行シングルとして、ディスク3に収録される予定の「You Need a Mess of Help to Stand Alone」のライブ版が配信されています*2

 

 

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ディスク5

[1972 Sessions]

1. You Need A Mess Of Help To Stand Alone (A Cappella) 2:44
2. Marcella (Track & Backing Vocals) 3:08
3. Here She Comes (Session Excerpt) 2:19
4. Here She Comes (2022 Mix) 5:11
5. He Come Down (A Cappella Session) 1:23
6. Hold On, Dear Brother (Track & Backing Vocals) 4:28
7. Steamboat (Track & Backing Vocals) 4:31
8. California Saga (California) [Track & Backing Vocals] 3:17
9. The Trader (Track & Backing Vocals) 5:03
10. The Trader (Second Section A Cappella) 2:42
11. Only With You (Alternate Mix) 2:55
12. Funky Pretty (Track & Backing Vocals) 3:54
13. Sail On, Sailor (Songwriting Session) 4:04
14. Sail On, Sailor (A Cappella) 3:11
15. Out In The Country (Version 1) 3:01
16. Out In The Country (Version 2) 2:14
17. Oh Sweet Something 4:00
18. Spark In The Dark (Track) 3:55
19. Rooftop Harry (Track) 3:00
20. Body Talk (Grease Job) (Track) 2:53
21. Holland Promo 2 (1973) 1:03

 

13「Sail On, Sailor (Songwriting Session)」は、ブライアンがこの曲を作曲した際に歌ったデモで、長い間紛失したと考えられていましたが、昨年7月に再発見されたことが判明していました。ブライアンがリリース版とは異なる歌詞を歌っている貴重な音源で、このボックスセットのもう一つの目玉と言えるでしょう。

15-16「Out in the Country」は、ブライアンとドン・ゴールドバーグ(Don Goldberg,『Feel Flows』に収録された「Sweet and Bitter」などの共作者)の作品で、1990年代にアルがオルガンをバックに歌う『Holland』期の録音が出回ったのち、2014年頃にドン・ゴールドバーグ本人が、自身がボーカルをとった別バージョンをYoutubeにアップロードしました*3(現在は削除)。ここでは、ドン版が「Version 1」、アル版が「Version 2」として収録されています。

17「Oh Sweet Something」は、本ボックスセットの発表まで存在すら知られていなかった曲*4で、ブロンディとリッキーの作品。デモや伴奏だけの未完成品ではなく、ちゃんと完成された作品だとされています。

18「Spark in the Dark (Track)」はオルガン主体のブライアンの作品で、この曲のリフが後にブライアンとアンディ・ペイリー(Andy Paley)の共作「Chain Reactions of Love」(1990年代半ば録音、未発表)に使われました。「Spark in the Dark」というフレーズは「Funky Pretty」の歌詞にも出てきますが、果たしてなにか関係はあるのでしょうか……

19「Rooftop Harry (Track)」もブライアンの作品で、どことなく『Friends』(アルバム)期の未発表録音に通じるコード進行を持つ一方で、ブライアンの実験精神が発揮された小品だとされています。事情通によると、前の「Spark in the Dark」とともに、このボックスの隠れたハイライトなのだそうです!!*5

20「Body Talk (Grease Job) (Track)」もブライアンの作品で、題名の通り「油っこい」ベースラインが聴けるようです。ビーチ・ボーイズの研究者Joshilyn Hoisingtonが再現したこの曲の一部のカバーが、こちらから聴けます*6

 

ディスク6

[Live Bonus Tracks]
1. We Got Love (Live/1973) 6:04
2. California Saga (Big Sur) [Live/1973] 3:00
3. Funky Pretty (Live/1973) 4:18
4. The Trader (Live/1975) 5:28
5. Sail On, Sailor (Live/1975) 3:41
6. All This Is That (Live/1993) 4:14

[Mount Vernon and Fairway (A Fairy Tale) Sessions)
7. Fairy Tale Music (2022 Mix) 4:37
8. Pa Let Her Go Out (Better Get Back In Bed) [Alternate Version With Intro] 1:19
9. I'm The Pied Piper (A Cappella Section) 0:31
10. Radio King Dom (A Cappella Section) 0:38
11. I'm The Pied Piper (Alternate Take Spoken Section) 0:47
12. Medley: Mt. Vernon and Fairway (Theme) / A Casual Look (Session Excerpt) 2:58

[1972 Bonus Tracks]
13. Little Child (Daddy Dear) [Holland Home Recording] 1:19
14. Susie Cincinnati (Holland Home Recording) 1:09
15. Medley: Gimme Some Lovin' / I Need Your Love 3:58
16. California Saga (Big Sur) 2:56
17. California Saga (The Beaks Of Eagles) [2022 Edit] 2:28
18. California Saga (California) 3:23
19. Carry Me Home (Track & Backing Vocals) 3:23
20. All This Is That (A Cappella Alternate Verse) 0:18

 

1-6はオリジナル・アルバムの収録曲のライブ録音ですが、この中で注目なのは6「All This Is That (Live/1993)」です。この録音は、1993年11月にボックスセット『Good Vibrations - Thirty Years of the Beach Boys』の発売に伴って開催されたツアーからのもので、リハーサルの音源が、2007年の『All This Is That』というブートレグに「ステレオ別バージョン」として収録されていました。(このボックスの音源がライブの録音か、『All This Is That』に収められたリハーサルの録音であるかは不明です)

7「Fairy Tale Music (2022 Mix)」は1993年の『Good Vibrations』ボックスに収められたもののリミックスで、『Holland』の付属EP「Mount Vernon and Fairway」から音楽だけを抜き出したものです。ここでは1993年版より30秒ほど長く収録されています。

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8「Pa Let Her Go Out」は括弧書きにある通り「Better Get Back in Bed」の別バージョンで、「Lazy Lizzie」*7のAメロのメロディーをブライアンがピアノで演奏する部分が含まれています。

12「Medley: Mt. Vernon and Fairway (Theme) / A Casual Look (Session Excerpt) 」はブライアンのピアノ弾き語りのデモで、2000年頃に『Holland』の再発にボーナス・トラックとして収録する計画が流れていた貴重な音源が、今回ようやく発表されることになります。タイトルにあるように、このデモでブライアンはのちに『15 Big Ones』に収録される1950年代のオールディーズ「A Casual Look」を歌っています。当初ブライアンは、「Mt. Vernon and Fairway」を自身の伴奏音楽と物語、オールディーズを織り交ぜた内容にしようとしていたのです。

13・14はブライアンのデモで、「Daddy Dear」は俳優のダニー・ケイ(Danny Kaye)が娘のディーナ(Dena)と歌って1955年に発表した曲のカバー、「Susie Cincinnati」は言わずと知れた『Sunflower』セッションからの曲です。この曲も、コレクターの間では以前から知られていましたが、公式では初めての発表となります。

ちなみに、「Susie Cincinnati」がビーチ・ボーイズの新リリースに何らかの形で収録されるのは、『Feel Flows』『Sounds of Summer』の拡大盤に続き3作連続です。

15「Medley: Gimme Some Lovin' / I Need Your Love」もブライアンの作品で、『Feel Flows』に収録された「It's Natural」「Awake」などに関わっているデヴィッド・サンドラー(David Sandler)との共作です。「Gimme Some Lovin'」はもちろんスペンサー・デイヴィス・グループの曲のカバー*8ですが、「I Need Your Love」はブライアンのオリジナルで、なんと後にブライアンのソロ・デビューアルバム『Brian Wilson』の「Walkin' the Line」に使われることになるベースラインがここでも聴けるとされています。

16-18は公式サイトでは「California Saga Trilogy」、iTunesでは「2022 Saga Trilogy」と表記されていますが、「The Beaks of Eagles」の長さが1分以上短くなっていること以外の詳細は不明です。「Big Sur」および「California」の長さは本編と同様なので、これらの曲は本編とまったく同じ内容で二度収録されている可能性もあります。

 

未収録に終わった音源

 このように多くの楽曲が収められ、全収録時間6時間1分にもわたる『Sail On Sailor - 1972』ですが、やはり収録内容から漏れてしまった音源が少なからずあります。

 ・「Just for You」「Sea Cruise」「Telephone Backgrounds (On a Clear Day)」「Sing Out a Song」「Untitled 1971 Piano Track」

 以上は『Feel Flows』への収録が見送られた楽曲で、昨年末にBandcampに曲を半分にぶった切り、前半だけをアップロードするという(ビーチ・ボーイズへのリスペクトのかけらもない)やり方で公式に「発表」され、今年1月ににファンに発見されると、その翌日にページごと消滅してしまいました。今回のボックスセットに収録されることが期待されていましたが、やはり収録はかないませんでした。

 「Just for You」はデニスがキーボードで弾き語りする曲で、はっきり言って「I've Got a Friend」などよりよほど完成感のある曲なのですが、いったいどうして収録を渋っているのかわかりません。「Sea Cruise」は、『15 Big Ones』セッションで録音され、1981年に『Ten Years of Harmony』で発表された曲をデニスがジャム・セッションで軽く歌ったもので、フランキー・フォードのカバーです。

 「Telephone Backgrounds (On a Clear Day)」はカールがシンセサイザーを使って作った実験作。「Sing Out a Song」「Untitled Piano Track 1971」はブライアンとデヴィッド・サンドラーの共作から生まれた楽曲(ボーカルなし)です。

 

 ・「House of Lies」「Loretta Laredo」「I've Got Love」

 1972年にオランダでカール、ブロンディとリッキーが行ったジャムセッションで録音された曲で、現存することが確認されていますが、本セットへの収録はかないませんでした。

 ・「In Concert」1枚組

 1973年に発表された2枚組のライブアルバム「In Concert」の未発表初期バージョンで、2枚組に収録されていない録音が多く含まれていますが、このボックスには収録されていません。ただし、そのうち一部はディスク3~4のライブ音源に含まれている可能性があります。

 

 このほかにも、「The Trader」の初期バージョンや、「Funky Pretty」「Marcella」などの当時作られた別ミックスが存在することが知られていますが、このボックスへの収録は見送られました。なお、別ミックスに含まれている要素の一部はトラック&バックボーカルミックスなどで聴けるかもしれません。

 

おわりに

 このように見てみると、このボックスに収録されたブライアン絡みの未発表音源の多さに驚かされます。(既存曲の別ミックスを除いても10曲もあります!)これらに並行してブライアンは『American Spring』の制作も行っていたわけですから、アルバムでの存在感の薄さにかかわらず、この時期もブライアンは非常に多作だったといえるでしょう。そういう意味で、ブライアンはこのボックスの影の主役です。もちろん、デニス(「Carry Me Home」)やブロンディとリッキー(「Hard Times」「Oh Sweet Something」)の未発表音源にも目が離せません。

 このボックス・セットはCD6枚組以外にもさまざまな形態で発売されます。CD2枚組*9をはじめ、オリジナル・アルバム2枚と「Mt. Vernon & Fairway」のEPの内容を収録したLP2枚組+EPのセット、それに加えて「Live at Carnegie Hall」の全曲を収録したLP5枚組・EPのセットが販売されています。また、LPセットにはそれぞれ当時のプロモーション用冊子を付録に付けた限定版も販売されています。

『Feel Flows』のLPには各面のオリジナルの楽曲の直後にライブ音源やボーカルの抜粋などが脈絡なく収録され、ファンの不興を買っていましたが、『Sail On, Sailor - 1972』のLPにはボーナストラックは基本的は収録されず、LP5枚組セットの「Live at Carnegie Hall」の3枚目裏面に(ライブ音源は3枚目表面までで終わります)「We Got Love」「Carry Me Home」「Hard Times」「Fairy Tale Music」が収録されているのみです。

 

『Sail on Sailor - 1971』の発売まで約一ヶ月半、この記事を読んで皆さんの期待を高めていただけたらうれしいです。

 

 

music.apple.com

www.universal-music.co.jp

diskunion.net

Sail On Sailorshop.thebeachboys.com

 

*1:The Beach Boys Announce Yearlong 60th Anniversary Global Celebration — Brian Wilson "Following the release of Sounds of Summer, this fall Capitol/UMe will release the next chapter in The Beach Boys’ archival releases, which will explore the bands often overlooked but pivotal albums, 1972’s Carl and the Passions – “So Tough” and 1973’s Holland."

*2:この曲、コーラスに一部スタジオ音源のボーカルが流用されているのではないかとの噂がありますが、私が聴いた限りではどうも判別が付きませんでした。たしかにマイクの♪She Don't Know~のボーカルがスタジオ版に似通っている感じもしなくはないですが……

*3:ドンは、同時に「Sweet and Bitter」の別バージョンと、ブライアンが関わっているもう一つの楽曲「Fading Love Song」(ボーカルはドン)をアップロードしていましたが、前者は早くに削除。「Fading Love Song」は昨年まで視聴できましたが、ブラザー・レコードの要求により最近削除されてしまいました。「Fading Love Song」のこのボックスへの収録は、残念ながら見送られました。

*4:同様の楽曲に、『Feel Flows』に収録された「It's Natural」があります。

*5:『Feel Flows』のデニスの曲「I've Got a Friend」と同じく、元のテープから1分程度短く編集されています。(なぜ短くする必要があるのかな……) 

*6:https://endlessharmony.boards.net/post/18083/thread

*7:1976年の『Love You』セッションで録音された未発表曲で、サビに「Better Get Back in Bed」のメロディーが流用されています。

*8:ブライアンはこの曲がお気に入りのようで、1977年の『Adult Child』セッションの直後に再録音、更に2008年にもジェフリー・フォスケットのボーカルで録音しています。(共に未発表)

*9:『Feel Flows』に比べてオリジナル・アルバムの収録時間が長いため、2枚組には未発表曲はあまり多く収録されていません。未発表曲に関心がある方は6枚組の購入をおすすめします。